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最高裁判所第一小法廷 昭和46年(オ)915号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人堤敏恭の上告理由第一点について。

所論の点に関する原審の事実認定は、原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)の挙示する証拠関係に照らし是認できないものではなく、詐欺の成立を肯認した原審判断は、右事実関係のもとにおいては正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は、採用することができない。

同第二点一ないし三について。

民法一二五条により追認をしたものとみなされるためには、同条各号所定の事由が民法一二四条により追認をすることをうる時より後、すなわち、「取消ノ原因タル情況ノ止ミタル後」に生じたことを要するが、右の事由が「取消ノ原因タル情況ノ止ミタル後」に生じたことについての主張・立証責任は、民法一二五条による追認の効果を主張する者に属するものと解すべきである。けだし、民法は、通常の追認に関しては、一二四条一項において「追認ハ取消ノ原因タル情況ノ止ミタル後之ヲ為スニ非サレハ其効ナシ」と規定していて、追認が右の時期より後にされなかつたことを追認の無効事由とする趣旨と解されるのに対し、一二五条の追認に関しては、同条本文において「前条ノ規定ニ依リ追認ヲ為スコトヲ得ル時ヨリ後取消シ得ヘキ行為ニ付キ左ノ事実アリタルトキハ追認ヲ為シタルモノト看做ス」と規定していて、所定の事由が右の時期より後に生じたことを同条による追認の効果発生の要件事実とする趣旨と解されるのみならず、同条による追認は、追認者の意思のいかんにかかわらず相手方保護のために追認を擬制するものであることに鑑みると、追認の効果を主張する者にこの点の主張・立証責任を負担させるのが公平の原則に合致するからである。

ところで、上告人らは、詐欺を理由とする被上告人義孝の取消の主張に対し、同被上告人には民法一二五条一号および六号所定の事由があるとして同条による追認を主張するが、右の事由が前叙「取消ノ原因タル情況ノ止ミタル後」に生じたことについてはなんら主張していないのである。したがつて、上告人らの右追認の主張はそれ自体失当というべく、原審が右の主張を排斥したことは結果において相当ということができる。原判決の判断の過程に所論の違法があるとしても、その結論に影響しないから、論旨は理由がないことに帰し、採用することができない。

同第二点四について。

原審の適法に確定した事実関係によれば、被上告人林清子に対してされた本件強制執行が不当執行であつて、同被上告人に対する関係において不法行為を構成する旨の原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 藤林益三 裁判官 大隅健一郎 裁判官 下田武三 裁判官 岸 盛一 裁判官 岸上康夫)

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